浅草・馬道交差点近くの天丼・うなぎ割烹(かっぽう)「大黒家」(台東区浅草3)が3月31日に閉店した。3代続いた同店が105年の歴史に幕を下ろした。
1921(大正10)年に創業した同店。丸山家が立ち上げた「大黒家」を、それぞれ雷門、馬道、柳橋で継いだ歴史を持つ。当初は花街である観音裏の割烹として、予約客に向けて料理を提供する店だった。3代目の半ばからは、時代の流れに合わせて、より気軽に入店できる一般的な飲食店へと業態を変更して営業を続けてきた。
閉店の背景には、近年の著しい客層の変化と、職人気質(かたぎ)である料理長(3代目・丸山和也さん)の料理に対する強いこだわりがあったという。3代目の妻の清子さんは「料理長は、よい料理をできるだけ抑えた価格で提供したいという考え。しかし、体力的な衰えと近年のインバウンド増加により、たくさんのお客さまに対して自分の思った通りの料理を提供することが難しくなった。(閉店は)経済的な理由ではなく、納得のいかない料理は出したくないというのが一番の理由」と話す。
長女の有香さんによると、ここ10年ほどで来店客の半分以上が外国人観光客になったという。「外国人客が4人で天丼1杯だけを注文したり、半分以上ご飯を残したりするケースが増えた。メニューにないラーメンを注文して、『ありません』と返答すると帰られたこともある。一方、日本人の宴会や家族連れは減り、一人客が増えた。家族連れを想定した4人席中心の店の造りも時代に合わなくなってきた」と振り返る。
有香さんは「料理で人に喜んでもらいたいという思いが店の原動力だったが、その前提となる状況が変わってしまった。観光地にあるので、時代に合わせてシフトしていかなければならない。そこまでして続けていくかを考えるところがあった。みんなに惜しまれる段階で閉めた方が店としてふさわしいと家族で話し、有終の美を飾る決断を下した」と明かす。
同店には、戦時中に天丼とうな丼用のタレを入れたつぼを大八車に載せて疎開し、空襲から味を守り抜いた歴史もある。「初代から脈々と受け継がれてきた味がなくなってしまうのは惜しいが、両親がすがすがしく『やり切った』と思えているのが一番」と有香さん。
今後について、清子さんは「料理長がこれまで頑張ってくれたから、これで良かったと思う。今までは店を長く空けられなかったので、これからは2人で旅行にも行きたい。月曜休みの店だったため行けなかった美術館や博物館巡りも楽しみたい」と笑顔を見せる。