数多くのドラマ・映画のロケ地にもなった昭和初期創業の「梅の湯」(台東区蔵前4)が、4月1日をもって解体することが決まり、3月29日に1日限定の公開イベントが開催された。
朱色の千鳥破風屋根が印象的な同銭湯は、創業当時から近隣住人に親しまれてきた。映画「テルマエ・ロマエ」の完成会見の会場や数多くのドラマ・映画のロケ地にもなり、著名人のサインや写真で壁が埋め尽くされていた。約1年半前から休業を知らせる張り紙を出したままの日が続き、再開や改修・保存を希望する周辺の住民たちの声も多く寄せられた。しかし、耐震性の問題や老朽化などもあり、その願いはかなわず取り壊すこととなった。
「せめて最後は盛大に送り出したい」と、近隣に住む靴下デザイナーの山口あかりさんがイベントを企画。当日は、経営者の黒川さんが保管していたのれんを出したところ、近隣の住人や通りすがりの人、うわさを聞きつけた銭湯ファンが次々と訪れた。同イベントでは、通常見ることができないボイラー室や2階の住居部分など建物内の「全て」を公開。最後のイベントらしく男女関係なく「男湯」「女湯」を開放した。昔からの常連たちも「禁断の女湯に入った」「男湯はこうなっていたのか」と興味津々。「憧れの番台」にも上がることができ、多くの人々が記念撮影を楽しんだり、思い出話に花を咲かせたりした。
「子供のころからずっと利用してきた。思い出がたくさん詰まっている場所」「戦前から通っていた。なんとか修復してほしかった」「数回しか来ていなかったけれど、営業が再開したらまた来ようと思っていたのに残念」「近所に越してきたばかりで、一度も入れなかったのが残念」「のれんが出ていたから営業再開したのかと思ってのぞきにきた。まさかこれが最後になるなんて」と、集まった老若男女のファンが思いを口にし、設置したメッセージ帳には多くの感謝と別れを惜しむ言葉も寄せられた。
蔵前は銭湯が次々に廃業しており、今では数軒しか残っていない。住民たちに愛された銭湯がまた一つ、集まったおよそ250人に見守られながら、その歴史に幕を閉じた。