台東区生涯学習センター近くの「コシケン」(台東区松が谷4、TEL 03-3843-2520)は、腰痛が軽減するという家庭で使える浮腰式(ふようしき)の椅子を開発。販売開始から1年がたった。
座るだけで腰部と背骨がストレッチできるという「腰健(こしけん)いす」は、両サイドの肘掛けが上半身を支えて、乳児が母親に抱き上げられているような状態になり、自分の足腰の重さだけで無理なく腰まわりがストレッチされることで血流が良くなるという。使用感や効果には個人差があるが、治りにくい腰まわりの違和感が椅子に座ることで改善する効果が見込まれるという。
自分の腰の痛みを軽減するために同製品の開発を始めた崎津英昭さんは、プールでウオーキングしている最中にこの単純な原理を思い付いたという。「腰は常に上半身の重さを支えておりストレスがかかっているが、この重みを除去できれば腰痛が軽減されるのでは」と1995年、ソファタイプの椅子を開発した。
同椅子の効果を実感しながらも、「臨床的にはどうだろう」と考えた崎津さんは、医療用としての椅子の開発に取り掛かった。1998年に開催された健康博覧会に完成した医療用いすを出品したところ、当時の厚生省、現日本大学理工学部教授医学博士の城内博さんに認められ、腰痛治療器として販売を始めた。2000年8月には米国国際人間工学学会で取り上げられ、2004年には米国特許を取得した。
2007年ごろから「一般家庭でも簡単に使えるものを」とモーターや油圧を使わず、座るだけで稼働するシンプルな椅子作りに取り組み、試作を重ね2014年に現在の椅子の形が出来上がったという。
「頭の中にあるアイデアを形あるものに変えることが楽しくて仕方ない」という崎津さんは、2020年の東京オリンピックに向け、新しい玩具なども開発中だという。家庭用の同製品もさらに使いやすくしたいと、さらなる改良を試行錯誤している。
もともと広告業界でグラフィックデザイナーをしていた崎津さんは、「長時間のデスクワークやぎっくり腰を経験し、腰痛のつらさは自分が一番よく分かっている。一人でも多くの方に使ってもらえれば」と話す。
ソフトバンクの小久保選手が椎間板ヘルニアで登録を抹消された後、医療用の同製品を使用して腰痛を克服し、2000本安打を達成したことで話題になった。家庭用でも、歩行困難だった近所のご老人から散歩に誘われるようなった話や、毎日使うことで曲がった腰が真っすぐになったという利用者の話など、うれしいエピソードは尽きないという。
医療用・家庭用と、1億円近くを開発に要したという崎津さん。「広告業界では、精魂込めて作った自分の作品もセールス期間が終わればゴミとなってしまう。もうからなくても誰かのためになる物を考え、形にして使ってもらえることの方により大きな喜びを感じる。今はとても幸せ」と笑顔で話す。
家庭用椅子は12万8,000円。