蔵前のコーヒー専門店「コフィノワ」(台東区蔵前3)が8月2日で10周年を迎えた。
同店は2016(平成28)年8月2日、コーヒーの卸メーカーで12年間焙煎(ばいせん)業に携わった高橋史郎さんが開業したスペシャルティコーヒー専門店。店名には、産地と飲む人をつなぐ「コーヒーの輪」を作りたいという思いと、コーヒーの新星になれるようにとの願いを込めた「COFFEE NOVA」の2つの意味をかけた。高橋さんは2008(平成20)年からコーヒーの品質評価資格「Qグレーダー」を継続して取得しており、現在は妻と共に店に立つ。
周年の日には、独立前に勤めていた会社の社長が来店したほか、常連客から祝いの言葉が相次いだという。高橋さんは「大きな告知をしているわけではないのに、『おめでとうございます』と言っていただけるのは本当に誉れ」と振り返る。10年の間には、近隣に住む客が成長した息子を連れて再訪したり、海外在住の客が帰国する度に立ち寄ったりと、店を介した縁が積み重なってきた。
この10年でコーヒー豆の仕入れ値は3倍に高騰したという。それでも同店は広告の発信をほぼ行わず、観光客ではなく近隣住民が日常的に通える店を目指し、価格を抑えながら品質を維持する方針を貫く。高橋さんはQグレーダーの資格を生かし、「客観的においしいと評価できる豆」の中から割安なものを見極めて仕入れることでコストを抑えているといい、「可能な限りいいクオリティーで安いものを提供したい」と話す。
10周年の節目となる今年4月には開業以来使ってきた焙煎機をトルコのメーカー「ベスカ」製の新型機に入れ替えた。容量は旧機の約2倍で、稼働音が大幅に静かになったほか、豆の温度や上昇率をパソコンの画面上でグラフとして確認しながら焙煎できる。旧機では1日に最大15回焙煎していたが、現在は平均5回程度で済むという。導入から2カ月余りで約400回焙煎したが、「まだ100%は理解していない」と機械との対話は続く。
焙煎について、高橋さんは「豆と対話しているイメージ」と表現する。焙煎中は集中するため店に人を入れず、開店時間が近づくと「職人」から「商人」へと頭を切り替えるのが日課。焙煎した豆の味の答えが出るのは2日後といい、「そこが魅力でもあり、怖いところでもある」と職人としての顔をのぞかせる。
10年間を振り返り、「しんどかったことはあまりない。日々がありがたい」と高橋さん。コロナ禍でも客足や売り上げは落ちなかったという。多店舗展開は考えておらず、「もうけるためではなく、コーヒーを楽しんでもらうために店に立っている」と1店舗での営業にこだわる。
今後については、コロナ禍前に一度開いたカッピングセミナーのような、コーヒーを知ってもらう機会を再開したい考え。地元小学生の職業体験も受け入れており、親子でコーヒーの背景を学べる場づくりを構想する。「コーヒー屋になったからには、世話になった方々への恩返しをしたい」と新たな活動にも意欲を見せる。
店名に込めた「コーヒーの輪」の実現度を尋ねると、「まだ3合目くらい。30点」と笑う。「これからもいろいろな形で輪を広げていきたい。次の10年に向けて、ちゃんと返していかなければ」と20周年を見据える。
営業時間は11時~18時。木曜定休。